Cat Fez Blog

2022/03/15 13:26



 遠くでけたたましい霧笛が静かな波音とともに押し寄せて来る朝、黒い鉄塊がこちら側へ倒れて来そうな氷川丸の巨躯のスターン曲線の延長線上のボラードの陰に隠れるようにうずくまってぽんは微睡んでいた。

 

 お父がいて、お母がいて、兄妹たちがいて、仲間たちも、みんないて、優しいヒトがサーブしてくれるとびっきりのカリカリと柔らかいレトルトといい匂いの缶詰をみんなで黙々と好きなだけいつまでもいつまでも頬張っている。もう腹はこれ以上膨らまないほど貪った後は、この上もなく暖かい毛布にくるまって好きな時にコタツやベッドに侵入してもかえって褒められてカラダじゅう撫でられて顔じゅうにキスされてそれはもうどうしようもないくらい幸せな夢だった。確かに夢だった、、、、。

 

 ふと酷い空腹とヒトの気配で目を覚ますと口の周りの涎が乾いてカピカピになっていた。またいつもの一人っきりの朝だった。泰山木が微かに香る初夏とはいえ冷んやりした空気の中で早朝ランニングに励むアスリートたちの眼にはぽんの姿は微塵も映らない。ぽんもそれを知っていて食べ物をねだるような仕草をする気にはなれなかった。


紫のペチュニアが乱れ咲く花壇の向こう側からはナワバリを争う傷だらけのレオがオレンジの視線で火花を散らしていた。

 

「ああ喉が乾いてお腹もぺこぺこだよ。ゆうべから何も食べてないや。」

「なんで皆んないなくなっちゃったんだろう?何でボクは一人っきりなんだろう?いつまで生きられるんだろう?なんかどうでも良くなって来ちゃったよ。」


「ボクたちって何なんだろ?どこへ行くんだろう?」


「覚えてるけどもう忘れちゃったよ。」


「優しいヒトに会えるかな?」