Cat Fez Blog

2021/12/09 09:08


 0:31発の上大岡止まりの最終1500系の4両編成が軽ろやかな加速で戦前に建てられたクラシックな高架線の彼方に消えて行った。赤い車体に描かれた白いラインがまるで流れ星の尾のようだ。


 三毛のチロはスロット専門店と駅舎に挟まれた薄汚れた路地をヨロヨロ這いつくばりながらまだ警戒を解く訳にはいかなかった。


 換金を終えて一杯呑んだ機嫌の良いほうのヒトは楽しげに鳴き真似をして通り過ぎ、運のなかったヤツはチロを蹴り飛ばすフリをして通り過ぎて行く。いつものことだ。


 「ひどいことするなあ、しかも暑いし、気が遠くなりそうだよ。どこかに水はないかな?鋪道の溝の底にも一滴の水もないよ。今日も朝からご飯をたべてないよ。いつものあの太ったメガネの優しいヒトに会えるかな?こんな時間じゃ無理だよ。」

あまりの辛さにひときわ高い声で思い切り鳴いた。まだ熱を孕んだ真夏の夜の路面に鳴き声が吸い込まれていく。


 向こうのくさやの煙に燻された暖簾の居酒屋の戸口の陰から幼なじみのキキがさすがに今夜は心配そうに目線を送って来る。


「ワタシはあとどのくらい生きられるのかな?」

「水は飲めるかな?」

「明日は美味しいもの食べられるかな?」


「ワタシたちって何なんだろう?いつ産まれたんだろう?どこへ行くんだろう?」


「覚えてるけどもう忘れちゃったよ。」


「優しいヒトに会えるかな?」